2005年09月17日

青空チェリー

発行:新潮文庫

あ、いいなぁ
「女による女のためのR−18文学賞」で、読者賞を受賞した「青空チェリー」他、戦時下という設定が舞台の「ハニィ、空が灼けているよ」と青春の思い出を拭い去れない男が主人公の「誓いじゃないけど僕は思った」の短篇三つが収録されている。
年が似たようなせいなのか、それとも彼女の魅力なのか、文章がとてもすらすらと入ってきて、共感できる部分が多かった。きっとこの年代が考え、思っていくことはどこか似通っているのかもしれない。素直に、「あ、いいなぁ」と思った。


「青空チェリー」にも代表されるが、コミカルでさわやかな文体がとても新鮮な感じを受けた。そのコミカルさが、「青空チェリー」のいやらしさも吹っ飛ばしてどこかすっきりとしたさわやかさをかもし出している。だから官能小説じゃないのだろう。青春小説なのだろうなと思うのだ。ラブホを覗きながらオナニーとは、というか、予備校の横にラブホがあること自体、羨ましい設定だと思ってしまったが、それはともかくとして、いわゆる「女らしい」というよりも「乙女らしい」ところがいかにも純粋でとってもいい。描写も子供が描く絵のようにいやらしさがない。だからこそ女性からの支持が大きいのだろうと感じた。男が書くとこういうのは本当にいやらしくなっていけません。はい。ごめんなさい(と、謝ってみる)。

特にこの三篇の中でおもしろいのが「ハニィ、空が灼けているよ」で、最初から最後にかけて徐々に文章が上手くなっているのがよくわかる珍しい作品。いや、本当にからかって言っているのではなくて、そんな彼女の成長さえもとっても嬉しくなってくる。というのも、それだけ話に魅力があるからだ。現代の中に突然「戦争」という現実問題があるとして、という設定の中で、ちょうど今の若者ってこういうことを考えていくのだろうなと感じた。同じシーンが男女両サイドから描かれたりするのだが、人を思う気持ち、戦争について考える気持ち、もし大事な人が、友だちが、自分が、戦争に巻き込まれたら・・・「平和を当たり前」と思っているところがある現代人にちょっとした示唆を与えてくれる作品だと思う。どうしても「恋愛」部分に目がいきがちだが、いわゆる「恋愛」の部分は「戦時中」という設定にデフォルメされているのだと強く感じた。だからこそ、私は「恋愛」の部分よりも「戦時中」の部分に目がいったのだ。すっと世界に引き込まれていって、最後には、誰かのことを考えてしまうような、そんな魅力に溢れている。こういうことができる作家さんはなかなかいない。

「誓いじゃないけど僕は思った」は、「淡い青春の思い出」。過去の恋心から脱却できない男の人の話。というより、多くはナルシズムに浸るのが男だろう。なんてひどいことを言ってしまってはいけないが、ここでは「聴覚」が効果的に使われている。大体恋愛で強く残るものは「聴覚」「嗅覚」「視覚」である。これらの要素が最も過去をフラッシュバックさせる引き金となるものだが、「ああ、青春っていいよねぇ」って、誰もが思うもんじゃなぁ〜い?人によって思い出すものも、こだわるものも違う。だからこんな小説のような経験じゃなくて、自分はふられちゃったとか、傷つけちゃったとか、泣いちゃったとか、そんなことばっかり思い出してしまうのだが、まだまだ純粋な頃って、確かにあの女のこのちょっとしたあの仕草とか、あの匂いとか、あの言葉とか、あの光景とかに妙に発情してしまうのが男と言う生き物であって、そんなところにいつまでもこだわってしまう男の姿が、よく書けてるなと感心してしまったのです。
posted by ハヤブサ at 22:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/7028385

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。